第10回クオリアAGORA/ロボット~次代のコミュニケーション
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スピーチ 「ロボットからみる次代のコミュニケーションとは?」
ロボットクリエーター(ロボガレージ代表 東京大学特任教授)
高橋 智隆氏
実は、ロボットを作り続けてきて、ヒューマノイドロボットは何のためにあるのかと考えてきたのですが、その答えは、コミュニケーションなんだろうと思うようになりました。 きょうは、私のロボットを少し紹介した後、ロボットとコミュニケーションについてお話しします。
勝手にロボットを作って見せびらかしているうちに、それを使わせてくれという話になって、代価をいただくというようなことになっていったのですが、一番知られているのは、パナソニックの乾電池のパワーを証明するコマーシャルに使われたロボットだったと思います。
最初の試みは2008年、私のちっちゃなロボットが乾電池2本で、
グランドキャニオンの谷底から530メートルの頂上まで登って行けるかという挑戦でした。
実は、ヘリで付いた谷底は、それは過酷な環境で、ガラガラヘビもいればサソリもいる。 それに、撮影という時には、それまでの行いが悪かったのか、大雨や雹も降る大変な状態にもなりました。 ところが、乾電池を背負ったちっちゃなロボットは、こんな敵意むき出しの自然と戦いながら、綱を伝って、見事530㍍を登りきったのです。 多分、コマーシャルからは、さらっと成功したように見えますが、結構、苦労があったのです。 ひょっとして壊れるかと思い、ロボットは3体持って行っていました。 ところが3回失敗し、3体とも壊れてしまったのです。 その部品を寄せ集め4体目を作り挑戦を続け、何と6回目でやっと成功したというわけです。
その記念すべき成功したロボットは、パナソニックにではなく、今は、私の手元にあります。 ほんとは、ロープを伝ってよじ登るという辛気臭いことをしなくても、滑車にすれば合理的ですね。 実は、わざと人のように頭を振り振り、一生懸命登る動きでやきもきさせ、見ているうちに「エボルタ」を印象づけてしまおうという狙いだったんです。
グランドキャニオンでのトライでは、電池の残量は十分でした。 それで、もっと長い時間に挑戦してみようと、次は、翌年、24時間の耐久レースで有名なフランスのルマンで、ギネス記録に挑戦ということになりました。 サーキットを借り切り、何とスタッフは日仏の50人。 ものすごい大げさなチャレンジとなったのですが、ロボットを作るのは私だけです。 三輪車に乗ったロボットが、前を走る電動バイクを赤外線センサーで追いかける。 夜にはホントは必要ないですがライトまでつけて走り続けました。 私は朝まで寝ていましたが、ゴールになるころ現場に行き、レースらしくシャンパンでお祝いしたのでした。 これで、電池は空っぽになり、何といっても1億円もかかるプロジェクトなのでもうないだろうと思っていたら、今度は充電式の乾電池でということになり、東海道五十三次の53日走破。 そして、昨年は、「アイアンマンハワイ・ワールドチャンピオンシップ」が開かれるハワイでのトライアスロン挑戦と続いてきました。 今年は、パナソニックの経営状態が残念なことになりちょっと難しくなってしまいましたが、V字回復となり、新しいチャレンジができればと思っています。
私は、まあ、こんなロボットを30種類ほど作ってきました。
その中から、少しかいつまんで画像とともに何体かを紹介しましょう。
2003年、京都大学を卒業するころに「neon」というロボットを発表しました。 アトムの誕生日イベントで発表したもので、アトムへのオマージュとなる作品でした。 外側には機械的なものは一切出ていません。 関節のところは白の伸縮性の布を使っていますが、これ実は、看護婦さんのストッキングなんです。 誤解なく手に入れるにはたいへんだったんですよ(笑)。
続いては、「Gabby」というNHKの小学生向け英語教育番組用に作ったロボットです。 操縦方法に工夫があり、マスタースレーブ方式といって人形型のコントローラーの手足とか頭をこねくり回すと、ロボットの各部が自在に同様の動きをします。 このロボットは収録のため朝から晩まで動かしているうち、あまりのオーバーワークに嫌気がさしたのか、セットのダイニングテーブルから身を投げて頭がバラバラになってしまいました。 多分、混線し誤操作が起こったのでしょうが、番組打ち切りの危機に。 ところが幸い、頭の片側だけだったので、セロテープなんかで張り付け、損傷のなかった左側だけを見せたままで無事収録しました。 こんな壮絶なエピソードもあったんです。
次はサッカーをする共同開発の自走式、自律型ロボットの「VisiON」。 2007年、アトランタでの「ロボカップ世界大会」で優勝しました。 この時から5年連続で優勝しました。 オレンジのボールに反応するので、会場のオレンジ色した風船をボールと間違え、それを追いかけてロボットが会場に脱走してしまうなどのハプニングを乗り越えて戦いました。 一応、2050年に人間のチームに勝つという目標で開発が進んでいますが、そこまではかからないと思いますね。 というのも、目的やルールがあるものは、ロボットにとってはやりやすいのです。 何が難しいかというと、「50円玉で、30分間好きなことをしてこい」というようなことを命じられることで、すっかり固まってしまいます。 ロボットは、曖昧な指示をされるのが一番の苦手なんですね。
次は、女性型のロボットも作りました。 「FT」といいますが、どうすれば、本質的な女性らしさが出せるかを工夫した作品です。 日ごろの個人的な観察力が生かされていて(笑)、例えば、逆方向にもしなる柔らかな関節やわざとX脚にするとかの工夫で、女性らしいしなやかな動きを再現しました。 ファッションモデルにウオーキングのアドバイスも受け、どうですか、なかなかの女性らしい歩様を見せているでしょう。 最後は前に出てポーズも取ります。 京大で発表会を行ったんですが、あまりに派手にはしゃいだものですから、後で怒られました。 でも、このロボットを作ったことで、フランスのファッション雑誌の「VOGUE」が取り上げてくれたり、篠山紀信さんのグラビアになり、「ロボットといえばいかついマッチョ」というイメージを変えることができたのではないかと思っています。 それと、世界の美女ともお近づきになれた、と、これは、個人的成果ですが…。
実は、今お見せした私のロボットには、設計図というものがありません。
設計図は、多くの人が関わる場合は要りますが、一人で作るわけですから、必要ないのです。 頭の中にいい加減なスケッチを描いて作っていきます。 コンピューターの基盤とか部品やモーターは水平、垂直が基調なので、設計図を作ると、どうしても四角いものになるという弊害がある。 それに、デザインもCADでは限界があってつまらないものになるんですね。 部品も、自分で数十個の木型を切り出し、それに、熱で柔らかくしたプラスチックをかぶせて作ります。 これに、カーボンなど貼り合わせて補強しますが、外装部品として骨の上にかぶせるものではありません。 これ自体が昆虫のような外骨格となるのです。 このため、外装どうしが喧嘩をすることもなく、運動性能とデザイン性の両立を可能にしているのです。
さて、では、こんなふうにして作った最新の作品の一つ「ROPID」を紹介します。 これは、島津製作所で撮ってもらったレントゲン写真ですが、さまざまな部品が体内にぎっしり詰まっていますね。 実はこのロボットの特徴は、私の考えた技術で中腰にならないで歩けることです。
今までのロボットは、みんなヘッピリ腰で歩いていました。 ちょっと映像で、そのROPIDの素晴らしい歩きぶりを見てください。 この他、走り、起き上がることもします。 また跳ぶこともでき、その高さは、多自由度のヒューマノイドでは一番です。
それでは、先ほど、ちょっとお話の合った大評判になっている「ディアゴスティーニ週刊ロビ」のロボット「Robi」のプロトタイプを持ってきていますので、ちょっとデモンストレーションをやってみましょう。
実は、まだ開発途中なんですが、話したり、歌って踊り、テレビをつけることができます。
ちょっと名前を聞いてみましょう。 ~はい、どうでした、自己紹介をしましたね。 目玉の人感センサーで、人がいる方を向きます。 人が声を出して頼むとテレビをつけたり、キッチンタイマーになったりします。 今、やってみましたように、質問に答えたり、頼んだことをしてくれたり、まだいわゆる「なんちゃって」のレベルなんですが、人とコミュニケーションをとることができます。
そして今、この夏に宇宙に行くコミュニケーションロボットの準備をしているところです。 この写真のロボットが、国際宇宙ステーションに行って宇宙飛行士と会話をします。
では、なぜ私は、こんなロボットを売り出したり、宇宙に持っていったりするかということなのですが、
将来、ロボットはこのようにわれわれの暮らしの中に入ってくると思うんですね。 ヒューマノイドはユーザーからの要望を通じさまざまな情報を集めます。 そして、その情報に基づいてホームセキュリティや掃除などいろいろなことを先回りしてやってくれます。 実は、これに近いことは、既にネット上では実現していることなのです。 例えば、グーグルで何か調べると、次あなたが調べたいのはこういうことと違いますかと先回りをして提案してくれるし、楽天やアマゾンで買い物をすると、次にはこれがほしいでしょうと提案してきます。 IT関連の事業者から、これまでの買物、行動履歴を基にさまざまな提案が行われてくることは、みなさんご経験になっていることと思います。 しかし、われわれがネット上で行動している時間はそう長くはなく、せいぜい1日3時間ぐらいといわれています。 ところが、もしもヒューマノイドロボットと日常的に雑談をしていれば、ネット上とは比較にならない、よりたくさんの情報が集められ、より多くの有益な情報を返してくれることになります。 この時、ロボットがヒューマノイド、つまり人の形をしていることに意味があるのです。 なぜかというと、アイホンやカーナビなんかで音声で話かけると、音声認識し音声で情報が返ってくるというのは経験していますが、だれもあまり使わないのですね。 四角いものに話しかけるのは、人間抵抗感があるんです。 しかし、金魚やくまのぬいぐるみに話しかけるのにはそう抵抗感がない。
何がいいたいかというと、相手が賢いかどうかじゃなく、勝手に擬人化できるかどうかで、コミュニケーションが成り立つかどうかは決まるわけです。 ということで、人のような形をし、人のような動きをする音声認識の入ったロボットには、人はいっぱいべらべら話しかけるわけで、話せば話すほど情報がたくさん集められ、その分だけより精度の高い有益な情報を返してくれるということなのです。 ということで、ロボットが何で人の形をしているかというと、それはコミュニケーションを取るためだったんですね。 人に代わって作業するためだけならば、人の格好をしているというのは合理的ではない。 人の格好をしたロボットが掃除機を持って掃除をするというのは、むしろ効率が悪い。 掃除ロボットのルンバの方がいいし、皿洗いも食器洗い機でいいわけですね。 そして、ロボットが人の格好をしているのは、作業するためではなくコミュニケーションのためだということなら、大きさも小型でいいだろうということになります。 ちっちゃいといいことがいろいろあるんです。 まず安全なんですね。 等身大のロボットが転ぶと、人を怪我させることがあります。 それと、大きいことで問題になるのは、期待値が大きくなるんですね。 等身大だと人間と同じ動きや知能を期待してしまう。 ところが小さいと、あまり期待しないから、何かをやると、思ったよりすごいということになります。 この小さなロボットが、やがては小型の情報端末として、スマートホンに手足がついたようなものになっていくだろうと思います。 大胆予想をしてしまうと、15年後の「iPhone9」は、ぼくの考えた手足と頭がついていて、それが胸のポケットから顔を出して話をします。 それはまるで、「ゲゲゲの鬼太郎」の「目玉おやじ」や「ピーター・パン」の「ティン・カーベル」のような存在なんですね。 そういう存在が、作業をするのではなく、持ち主に入れ知恵をしてサポートしてくれる。 将来、そんな小さなロボットと一緒に暮らすようになるのではないかと思います。
ところが、今、ロボットに、どうしてもなんか人助けをさせよう、物理的な作業をさせようという話が多く、何か誤解を生んでいるように思います。
つまり、おじいちゃんの世話や人命救助をしてほしい、あるいは、晩御飯の片付けというような作業をさせたい、また、社会的問題、個人の面倒をロボットに解決してもらいたいとなどと思いがちなんです。 が、それをロボットにさせるのがいいのか、あるいはそういうことが産業として可能性があるのかと考えると、私は、はなはだ疑問だと思います。
振り返ってみると、今、われわれが日常的に使っている新しい産業、例えばですね、「FaceBook」とか、「Twitter」「YouTube」、それに「セカイカメラ」など、どれをとっても、誰かが何かに困っていて、それを解決するために発明した産業ではないんですね。 そうではなくむしろ遊びなんです。 MITとかスタンフォードのちょっと変わった学生が思いついた珍発明をネット上で公開したら、閲覧数が伸びて、じゃあということで、投資家がお金を出してくれベンチャー企業として、会社がシリコンバレーにできてしまったということなんです。 サービスが始まっても、何のため、どんな用途があるのか、どうやってお金を儲けるのかということは何も決まっていないまま、できた会社です。 ただ面白い、いわば遊びが一人歩きして始まったような会社なんですが、ところが、サービスが普及していくと、だんだんこういう時に使えるのではないか、例えば、Twitterが震災の時に情報共有に役に立ったとか、YouTubeが企業の輪を広げるのに使えるとか、広告を載せれば儲かるなど、後から用途やビジネスモデルが生まれてきたといえます。 そういう順番で、産業ができていく時代になってきたと思うんですね。 もう、冷たい水で洗濯するお母ちゃんの手にできたあかぎれをなんとかしたい、という思いから全自動洗濯機が生まれた、という時代ではなくなってきた。 新しい産業は、さっきいったような悪ふざけみたいなところから生まれるようになってきたんだと思います。 そして、こういうことは、日本やアメリカのような先進国でしかできないはずなんですね。 つまり、経済的ゆとりがあって、文化的な豊かさがないと、悪ふざけめいたことを面白がって、産業にまで持っていくことは難しいと思うのです。 ところが、です、日本では、未だに古めかしいというか、問題解決型で、まあ、歯を食いしばって頑張って、いいものを安くたくさん作れば経済が復興する。 そんな風に思っている節があるようなのです。 でも、それはもう中国でできてしまう。 そうじゃない。 こうした先進国型の発想へ、新しい産業創生に向けて切り替わっていかなければいけないと思うのです。
そして、ロボットもそうなんです。
この持ってきているロボットが今すぐ役に立つわけではないのですけど、そういう新しいものができてきて、何となく楽しいと思っているうちにやがてそれが産業になるはずなんですね。 これを普及させるためのひとつの方法として始めたのが、先ほどお話した毎週組み立てていく「Robi」です。 このロボットは、実用性はないですが、何となく未来の暮らしのイメージがわかってもらえるのではないかと思います。
実は、今、評判のお掃除ロボットも最初は、おもちゃだったんです。 使ってみると意外と使えると評判になったところで、その会社は、もっとちゃんとしたのがあるんです、と3倍ぐらいの値段で実用性の高いものを発売し、大ヒットしたというわけなんです。 おもちゃのふりをして、便利なコンセプトを植えつけたことが、成功の秘訣だった。 私の「週刊Robi」もこれと同じことを狙っています。 何となくロボットとの暮らしのイメージが毎号に散りばめられていて、70号買い続けてロボットが完成した時には、ロボットと暮らす未来のイメージが刷り込まれていて、さらに高い値段のロボットを買わされるということになると思います(笑)。
さて、時間も来ましたので、まとめます。 今まで、ロボットも含め機械は高機能、高性能を追求してきて、もう人間が追いつけない状態になってきた。 だから、テレビも売れなくなってきたと思っているんですが、もう、これ以上の高機能、高画質は誰もいらんと思っているわけですね。 そんな時、アップルや任天堂がやったことは、操作性を改善して、使いやすくして、高性能、高機能ではないが説明書を熟読しなくても、誰でも何となく直感的に使えますということをやって、こういうものが売れるようになったんですね。 その先に音声認識があり、さらにその先にヒューマノイドロボットがあるんじゃないか。 そしてそんな未来に、人とロボットがコミュニケーションする時代が来るんじゃないかと思っております。
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