活動報告/クオリア京都

 


 

 

第3回クオリアAGORA/~地震の本質は何か~



 

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第3回クオリアAGORAは、カリフォルニア大学サンタバーバラ校の谷本俊郎教授がスピーカーです。東日本大震災から1年半近くを経過した今、改めて地震の本質に迫っていただきました。

その後、地球深部探査船「ちきゅう」で地震調査を行っているMori James Jiro京都大学防災研究所教授らとともにディスカッション、そして恒例のワールドカフェを開催、身近な地震の問題について、研究者と市民との関係はどうあったらよいのか等の対話が続きました。

 

問題提起スピーチ

ディスカッション

ワールドカフェ

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第3回クオリアAGORA/~地震の本質は何か-地球の動きを理解する~/日時:平成24年7月26日(木)16:30~20:00/場所:京都高度技術研究所10F/スピーカー:谷本俊郎(カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授)/【スピーチの概要】地球物理学者の目からみると、日本は観測設備が質および量ともに、最もすすんだ国である。 地震計、GPSによる観測網は世界の学者の羨望の的であるといっても過言ではない。 その国に、2011年、M9.0の地震が起こった。 地震学者がどう表現しようとも、この地震には多くの予想外の事象があり、あらためて学んだことがあった。 そのことを解説するとともに、地震国日本がこれから(地震研究のために)何をするべきかを考える。 /【略歴】香川県生まれ、関西で育つ(京都0−3歳、神戸4−18歳)。 1979年東京大学理学系大学院地球物理修士課程修了、82年カリフォルニア大学バークレー校Ph.D.。 カリフォルニア工科大学助教授,カリフォルニア大学サンタバーバラ校準教授,東京工業大学教授などを経て,現職。 主な研究分野は固体地球物理,地震学。 著書に「岩波講座地球惑星科学(第6巻,第10巻)」「AGUハンドブック」(American Geophysical Union)がある。 /WORLDCAFE―クオリアAGORAはワールドカフェスタイルにて開催されます。 

 


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問題提起スピーチ




カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授 谷本 俊郎氏


今日は、まず地震のファンダメンタルなことをお話しして、それから、みなさんの疑問、質問などを元にディスカッションしていければいいなと考えています。 


それでは、私たち地震学者が地震をどのように見ているのか、地震の「見方」というものをご紹介します。 実は地震というのは、「破壊」ではなく、断層面の摩擦の問題なのです。 この表現ではわかりにくいと思いますので、具体的に説明します。 この図を見てください。 



岩石の破壊実験

これは普通の岩のサンプルを使った岩石の破壊実験です。 この岩をぐっと押していきます。 すると、アコースティック・エミッションといいますが、岩の中に小さな破壊が起こり、ある時点から破壊が集中し、面上に並ぶようになって最後に バキッといく。 この破壊の時点での岩石の「歪」が10のマイナス2乗とかマイナス3乗ぐらいになると、たいていの物は壊れるんですね。 ものによる多少の違いはありますが、例えば、1メートルの長さのものなら、大体が1ミリから1センチ押して縮めると壊れるのです。 これが通常の破壊です。 では、地震はどうなのでしょうか。 


地震が起こった時に、地殻の変動を測ることができます。 地震の前と後を比べることによって、どれだけ「歪が解放されたか」を計算することができます。 



この地震の歪の計算が日本で最初に行われたのは…、


Strike Slip Earthquake

1927年に京都府北部で起こった「丹後地震」でした。 地震研究所の坪井忠二先生(東京大学名誉教授)が初めてエスティメイト(概算、推定)され、3×10のマイナス4乗ということでした。 破壊実験で岩石がバキッといく10のマイナス3乗とか2乗より、ずっと小さいひずみで地震が起こっていることがわかったんです。 


その後の研究で、マグニチュード7とか8という地震の場合でも、大体10のマイナス5乗からマイナス4乗と、岩石破壊よりはるかに小さな歪で地震は起こっていることが判明してきた。 ふつうの物だとその10~100倍以上の歪を起こさないとこわれないのに、そこまで押さなくても地震は起こる。 これは一体どういうことなのでしょう。 


答えは実は簡単で、地球の地殻にはすでにいっぱいキズがあるのです。 実は地殻はズタズタなんですね。 このキズを「断層」といいますが、地震は、岩石破壊で見たような新たな地殻の破壊ではなく、既にキズのできているところ、つまり断層に、力が加わっていくとある時点でキズ(断層)が滑り出すことなのです。 すでに存在しているキズをすべらせるので、小さな歪で、どこかの断層がすべり地震は起こるのです。 図を見てください。 




今、原発の関連でも、いろいろなところで調査が行われていますが、わかっているだけでも日本全体で、こんなふうに多数の断層が存在しています。 西日本を拡大してみてもこのようにたくさんの断層があり、地震のよく起こるアメリカのカリフォルニアにもいっぱありますね。 地球の地殻はマップで見る通り、傷だらけなんです。 


傷だらけの地球の地殻(日本)

傷だらけの地球の地殻(アメリカ西海岸)



そういう傷があるところに力が加わるわけですが、加わる力はプレート運動です。 地球は堅いプレートが表面にあります。 例えば太平洋プレートとかフィリピン海プレートとかが日本に向かって動いてきていて、プレート自身が日本の下に潜り込むのですが、その時に押す力が働き、その力で日本の地殻の中にある断層が動くわけです。 


太平洋プレートはこう日本海溝の中にもぐりこみ、同時に日本列島を押しているわけです。 フィリピン海プレートはこの四国、紀伊半島の南からこう来て押しています。 太平洋プレートが1年に8センチから9センチ、フィリピン海プレートが1年で3センチから4センチ、常にコンスタントに動いてきていて、同時に力がかかり、 断層を押します。 


ところが、力がかかって断層を動かすといっても、マグニチュード7ぐらいの大きい規模の地震がしょっちゅう起こるわけではないですね。 これは、なぜかというと、断層面上には摩擦力があって、これがかかってくる力に対抗してくれているからです。 ただ、いつまでも抵抗できるわけではありません。 長い間力がたまると、これに耐えきれなくなって断層が滑って地震になります。 


実は、摩擦力はない方がいいともいえます。 摩擦力が小さいと、押されたらズルズルと断層がすべるわけですが、その場合は地震のような急な変化は起こらず、ただズルズルと変形するだけで、大きな波動(揺れ)が起こりません。 摩擦は温度によって大きくかわりますが、地球の深いところ、温度が高いところでは断層がズルズルとすべり、地震は起りません。 残念ながら、地表から50キロ、100キロの比較的浅い所では温度が低く、摩擦力が強いままです。 ですから、100年、数百年とずっと押されてたまってくる力に、その摩擦力で抵抗しちゃうわけです。 そして、そのうち弾性の歪がどんどん増え続け、ある時、耐えきれなくなって大きな地震になってしまうというわけです。 こういう理由で大きな地震はいつも、プレートが地球内部に入っていくところ、特に表面から数十キロの深さまでで起こります。 


以上、地震のメカニズムをお話したのですが、
では、どこで、どのぐらい滑るかということが地震の前にわかるのでしょうか。 


一つの手がかりは地震の震源分布にあります。 起った地震をプロット(地図に)していきます。 すると、地震が起るべき所なのに、しばらく地震の起っていない空白域がみつかります。 そういうところに歪が溜まっているのです。 その情報に基づいて、ここらあたりでこの程度の規模の地震があるだろうと予測できます。 


成功例:1973年6/23 根室半島沖地震

例えば、十勝沖地震の近くを例にとりますと、長年の地震データをプロットすることで、ぽっかりと地震の空白部分が出てきます。 ここが摩擦で抵抗しているところです。 十勝沖付近は50年に1回程度大きな地震が起こっているので、地震学者は、1970年代初めには、そろそろここが耐えきれなくなって、地震が起きるぞと予測していました。 


そして、完全に予想どおりだったわけではないですが、1973年に地震が起こったのです。 


このように、地震の分布を調べていって地震の起こっていない空白部分、つまり摩擦でプレートの押す力に抵抗している場所を特定し、地震発生の周期と組み合わせるなど、いろいろなアイデアを使いながら、地震学者はいろんな予想をたてています。 この手法を用いて、地震学者は東北太平洋沖地震が起こる前、マグニチュード7から7.5あるいは8の地震が宮城県沖に起こることを予言していました。


成功例:1973年6/23 根室半島沖地震(拡大)

基本的には、宮城沖では36、37年、78年、81年にマグニチュード7.5-8の規模の地震が起こっている。 つまり大体40年に1回、マグニチュード7.5−8.0地震が起るだろうと予想していた。 その通り、2011年3月11日に実際に宮城沖で滑りました。 



ところが、起こった場所はおおよそあっていたといえるのですが、南北500キロ、東西200キロにも及ぶ震源域にも達するマグニチュード9という地震だったわけです。 


 


北日本の震源データ

私自身、海溝近くで断層の滑りが50㍍にも及んだことは全く想定外でした。 今まで聞いたこともないすべり量だったのです。 しかし、ここ100年のデータにはなかったとしても、毎年プレートは8センチぐらい動いているわけで、前に大地震があったのが千年以上前だったとすると、50-60メートルのスリップが起こっても驚きではないのです。 ただ、そういうシナリオを、あの地震の前に学会で話したとしても、誰にも相手にされなかったと思います。 


マグニチュードが9にもなったのは、断層が隣部分と連動を起こしたわけですが、これはほとんどの地震学者にとって想定外で、考えられないことでした。 この東北太平洋沖地震は、現在の地震学からすると想定外のことが起こったと言えると思います。 


地震学者にとっては、はずかしいことかもしれませんけれども、私は、地震学は、まだまだ未熟な学問だと思います。 地震学者はいろいろな予想をしますけども、その根拠は、たかだか100年の経験に基づいた「Working Hypothesis(作業仮説)」にすぎないことが多いと思います。 地震は100年の研究では足りない。 1000年に1回しか起らない地震もあるでしょうから、現象として見ていないものがまだまだ存在すると思います。 


例えば、地震学者が次に起こるだろうと思っている大地震は、今日おみえの関西の方には特に関心、興味のあることと思いますが、フィリピン海プレートが、四国と紀伊半島の南のところで衝突し沈み込んでいる場所です。 南海トラフ(深い溝)といいますね。 この南海トラフの東の端は駿河湾沖まで行っていて、ここに起る大地震を三つに分けて区別しています。



 


図をご覧ください。 まず、四国から紀伊半島にかけてのAとBを南海地震、C、Dを東南海地震、そしてEを東海地震というふうにいっています。 ここで、いままでどんな地震があったのか、地震のデータばかりでなく、昔の人の日記とか江戸時代の古文書などから、いつ大地震がおこったかが調べられています。 


例えば、一番最近では、CとDの部分の東南海地震が1944年に起こっている。 太平洋戦争の終わる1年前です。 続いて2年後の1946年に、南海地震が起こっています。 ただ、この時は明らかにEには連動せず、東海地震は起こっていません。 これが、後でお話しますが、40年近く前、東海地震が起こるという予測の根拠になったのです。 


その前のサイクルをみますと、江戸の終わりごろ1854年の安政の地震では、CD、Eが滑って、次の日に、確か32時間ぐらいだと思いますが、少し遅れて南海地震が起こり、すべてが滑っています。 駿河湾の沖まで滑って三つが連動しました。 また、そのひとつ前のサイクルの1707年の宝永の地震では、一挙に全部が滑って、大地震が起こりました。 


このように南海トラフの地震は何サイクルかをたどることができ、地震学者は連動が起こる可能性を知っていました。 大地震の間隔は一定ではありませんが、大体100年-150年の間隔で三つの地震は連動して起こっている。 次の地震はいつだろうかと考えると、 東南海と南海地震は戦後すぐに起っていますから、まだ来ないだろうと思っています。 


でも江戸時代を最後に駿河湾の地震が起きていないことから、1976年に、当時、東京大学の理学部にいた石橋克彦さんが、やがて単独で東海地震が起こるという「駿河湾地震説」を提唱されたんですね。 ところが、まあ、みなさんご存知のように未だに東海地震は起こっていません。 その理由は、わかりません。 ただ、過去のデータをみると、小田原地震というのもあって単独で駿河湾の地震が起こらないことはないと思うんですが、とにかく、国会で取り上げられたりマスコミをにぎわしたりしてもう40年近くになるのに何も起こっていない。 とても不思議なことですけど、先ほど申し上げたように、地震学が未熟であることの、これは証拠であろうと思うのです。 


未熟は未熟なのですが、でも、地震学者は お金をたくさんいただいてきたので、いろいろ地震観測について改良を加えてきています。 例えば、日本中の地面の変形を見るために1200個ものGPSが設置されています。 車のカーナビで使われている技術をもっと精度よくしたものですが、これで日本全体がどう変形しているかをリアルタイムでモニターして調べられるようになりました。 このデータを見ると、御前崎あたり駿河湾の地盤は下がっていて変形が起こっているわけで、地震が起こらないのは不思議といえば不思議なんですけれども…。 


日本の地震学者は、ほんとに観測施設としては世界一の環境の中を築き上げました。 こんなにGPSを置いているところは世界中にありません。 しかも、恒久的な施設になっていて、いつも筑波にデータが集められ、モニターできるんです。 もちろん地震計もこれ以上に設置されていて、ほんとに日本の地震関連の観測設備はすばらしいものになりました。 世界中の地震学者がうらやむようなシステムを作りあげてきています。 ただ、まだ経験が浅いものですからわからないことがたくさんあるわけです。 


データがよくなったのはあきらかな進歩ですが、見えることでわからないことがいっぱい出てくる。 例えば2000年ごろ、浜名湖のあたりでゆっくりとした地面の変形があり、それがGPSの観測で検出されました。 以前ならば見逃されていた現象です。 これについては、地震学者はいろいろ研究をしましたが、ニュースにはなりませんでした。 これまで何も起こっていないので問題はないと思いますが、GPSを設置したことで、このようないろんな今まで知らなかったことが他にも見えてきています。 


このGPSのデータは、1997年からのデータが インターネット上で開放されていて、誰でも見られるようになっています。 しかし残念ながら15年というのは十分な時間ではない。 幸い、この浜名湖の動きは、数年後には停まり大事にも至っていませんけれども、ことほど左様に、データを見てもどういうことなのかわからないことがまだまだ多いのです。 


東北の地震が起こる前GPSのデータ

この図は、東北の地震が起こる前のGPSのデータです。 平均的にプレートが沈み込んで押しているわけですけども、このように1年あたり数センチずつ変形を続けてきて、地震が起こった時、この変形が全部跳ね返って変形は終わるはずだったんですが、実は、3月12日からもまだズルズルと動き続けています。 これは、地震学者がこれまで知らなかったです。 


GPSのデータが手に入るようになって初めてわかったことなのですが、地震学者はこれからもっと経験を積んでいき、いろんな現象がどういう意味を持っているのか、得られたデータを突き詰め、解明していかなければならないわけです。 



ところで、次に日本の地震学者がしようとしていることは、陸地から100キロ-150キロ離れた海の底に地震計を置いて、海溝までカバーする観測網をつくり、海底の動きをも捕らえるということです。 


こうしたデータを積み重ねていくことで、海溝を震源とした大地震の仕組みが徐々に明らかになるだろうと思います。 とにかく、今日ご紹介した地震の原因が破壊ではなく断層面上の摩擦がキーであるということなどは、70年、80年前の物理学者は知らなかったのです。 それがいろいろなデータを蓄積し見ていくことで、明らかになってきました。 何しろ地球の中のことですし、そう頻繁におこることではありませんから、地震について知ることは難しいわけです。 それでも、データをもっと充実させ、経験を積むことによって地震学を進んでいます。 地震予知、火山噴火予知をして、社会に役立つようにしたいと地震学者は願っていますが、まず地球の現象をちゃんとしたデータに基づいて理解する — そのことによってしか、本当の進歩はないと思います。 


 


日本海溝海底地震津波観測網整備計画

最後に、社会の備えということに関してですが、日本で授業をする時、いつも学生に話す事をお話ししたいと思います。 それは首都機能の分散に関してです。 


日本の一極集中の首都・東京は、歴史的に地震で壊滅的な事態に何回かなっているところにあります。 東京は東から来ている太平洋プレートと、南から来ているフィリピン海プレートがぶつかりあっているところにあります。 今あらたに好きな所に首都を置きましょうということになったら、絶対に選ばない場所に日本の首都東京はあるのです。 立派な街ですが、いつか地震が起こって必ずダメージを受けることがあります。 その時に日本全体が困らないように機能をある程度分散できるような体制をつくっておくことが大事と考えます。 


他にもいろいろ社会の備えということに関してはありますけれども、首都機能の分散は早めにやっておくべきことと思います。 



 



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